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●「人体 失敗の進化史」遠藤 秀紀 [読書レポート]

「人体 失敗の進化史」遠藤 秀紀
遺体科学で、生物としてのヒトの来歴を探る


人体 失敗の進化史 (光文社新書)

人体 失敗の進化史 (光文社新書)

  • 作者: 遠藤 秀紀
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/06/16
  • メディア: 新書


読了日:2009.11.15
分 類:一般書
ページ:251P
価 格:740円
発行日:2006年6月発行
出版社:光文社(光文社新書)
評 定:★★★★


●作品データ●
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テーマ : 動物の進化
語り口 : 1人称(私)
ジャンル : 一般書(生物学系)
対 象 : 一般向け
雰囲気 : かなりやさしく
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【100字紹介】
ホモ・サピエンスの短い歴史に残されたのは、
何度も消しゴムと修正液で描き変えられた、
ぼろぼろになった設計図の山―。
動物遺体を解剖することで、様々な過去が見えてくるもの。
遺体科学で探った、動物の進化を紹介



本書は…面白いです。
もちろん、funnyではなくてinterestingで。

研究者の書いた、研究成果を一般人にも分かりやすく伝え、
そしてその研究領域への理解を深めてもらい、
更には味方につけてこれからの研究で応援団になってもらおう、
という感じの本です。

著者は京大の、あの有名な霊長類研究所の教授。
獣医師でもあり、博士号は獣医学。
(獣医学は、医学博士ではなくちゃんと獣医学博士があるのですね。)
動物の遺体を解剖することで研究を重ねている方です。
というわけで提唱しているのは「遺体科学」というわけ。

素人から見ると「動物の遺体解剖なんかして、何が分かるわけ?」
と思ったりもするのですが、何と驚き、こんなことまで分かっちゃう!?のです。
例えば、ニワトリの肩の骨は、飛ぶためにこんな変化を!ということもあれば、
耳の骨、これって実は顎関節から「ヘッドハンティング」されてきた骨が
大活躍していたりするのよ、というように、
パーツを新設するのではなく、別の場所で別の機能を持たせるという
「設計図描き換え」での対応の例がどんどん紹介されていきます。
前半は、動物の話が多く、中盤から本命の「人体」へ。

ヒトが二足歩行を始めるとき、何が必要だったか?というのは、
今までに自分の持っていなかった視点を放り投げられて、
不意打ちな感じがとても素敵でした。
単に立ち上がればいいじゃないか、では済まないのは当然ですが、
一体どこにどんな問題が生じてしまうのか?
まずは足の裏。四つ足なら悩まずに済んだ「バランス」の問題。
あれです、四輪車や三輪車はそうそうこけたりしませんが、
二輪車…バイクや自転車、それに一輪車ときたら、ふらふらですよね。
人間の足は、うまいことバランスを取れるように進化しているのです。
それから骨盤を立てて、しかもがっしりしないといけません。
何故なら、その骨盤で、上半身と内臓を支えてあげないといけないから。
その内臓を吊っておく工夫も必要です。そうしないとどんどん、
骨盤の方へ骨盤の方へ、内臓が集まっていってしまいますから。
今までの「吊り方」では90度方向が違いますから、
新たに内臓を固定する方法を考えないといけません。
更に歩くためには、骨盤に対して大腿骨の可動領域を増やさないといけません。
何しろ、人間の歩き方は、四足で歩いているときなら後ろ足を天に向かって
蹴っている姿勢をテンポよく続けているような状況ですから、
あんまり無理をすれば脱臼してしまいます。
筋肉だって、今までとは違うところが発達しないといけません。
こうやって考えていくと、ただ「立ち上がる」ことがいかに大変なことかが
よく分かる気がします。そんなに簡単に出来て、しかもメリットが大きいならば、
他の動物だっていつまでも四足で歩き続けていないかもしれませんよね。

このほかにも、手の話、脳の話、生殖器官の話、血流の話…
などなど、様々なお話が盛り沢山です。


そして最後に、この手の研究が危機に瀕している…というか、
これからますます瀕していくであろうことへの警鐘を鳴らしています。
ただ警鐘を鳴らすだけではなく、実際に行動を起こす著者。
科学研究に関しては、特に基礎科学の場合はどの分野でも当てはまるかもしれません。
すなわち、1990年代以降に日本が突き進み始めた学問の姿。

「それは、すぐにお金を生み、すぐに国際競争力となって対価を生み出すような、
 科学的好奇心というよりは、現実的な技術開発」 ―本文より

まさに。特に政権交代してからの予算削減では、
研究分野への投資はますます酷いことになっていますね。
確かに基礎科学、基礎医学はすぐにはお金にはなりません。
けれど、これを積み重ねずして、技術開発が続くはずがありません。
今はまだ、これまでの積み重ねの「貯金」があるので、
企業主導の技術開発も進む余地はありますが、
技術には必ず、裏打ちされる「基礎」が必要です。
「基礎」が教科書をつくるわけですが、この教科書が歩みをやめてしまえば…、
もうそれ以上の背伸びは出来なくなるはず。
どうやら日本には、それが分かっていない政治家さんが多いようで。
そんなことをぼんやり思いつつ、観光客のための公共サービスとしてではなく、
「文化の担い手」「科学の下支えをする施設」として、
全国の動物園・博物館さんにエールを送りたくなる…そういう1冊でした。


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文章・展開 :★★★★★
簡 潔 性 :★★★★
学 術 性 :★★★★
独 自 性 :★★★★★
読 後 感 :★★★★
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