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●「ソロモンの指環」松原聡・宮脇律郎 [読書レポート]

「ソロモンの指環 動物行動学入門」コンラート・ローレンツ[著]、日高敏孝[訳]
動物とともにあり、動物を愛した学者の言葉


ソロモンの指環―動物行動学入門

ソロモンの指環―動物行動学入門

  • 作者: コンラート ローレンツ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2006/06
  • メディア: 単行本


読了日:2009.11.08
分 類:エッセイ
ページ:275P
価 格:1680円
発行日:1963年12月、早川書房2006年6月発行
出版社:早川書房(新装版)
評 定:★★★★


●作品データ●
----------------------------
テーマ : 動物の行動
語り口 : 1人称(私)
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ユーモアたっぷり
訳 者 : 日高 敏隆
---------------------------

【100字紹介】
「刷り込み」理論を提唱し、動物行動学をうちたてた功績で
ノーベル賞を受賞したローレンツ博士の、動物を愛し、
友として動物と一緒に生活しながら進めた研究の中で、
動物たちの生態や行動の「実際」を描いたエッセイ



--オリジナル・データ-------------------
Er redete mit dem Vieh, den Vogeln und den Ficshen
by Konrad Lorenz 1949
---------------------------------------


100字で巧い日本語にまとまらず。
うーん、どれだけやっても、「魅力の要約」をする難しさは、
どれだけ見上げても向こうの見えない壁のような感覚です。
本の見返しにある紹介文、書店などの書籍紹介、
あれらを作成する人たちというのは本当に凄いですね。


さて、本書ですが。
結構有名な本だそうで、何気なく聞いた人たちに、
読んだことあるーと答えられてしまい、自分の読書経験の浅さ(?)に、
そこそこショックを隠しきれないところです。しくしくしく。

著者は「インプリンティング」で有名なローレンツ博士です。
有名なのは、生まれたばかりの雛鳥が、最初に見たものを親と認識する、
というものですが、インプリンティング自体はもっと大きな概念で、
他の段階であっても一度きりの記憶が、まるで脳にプリントされたように
長期に渡って保持されるような現象のことを言うようですね。
…ということが、本書に書いてあるわけではないですけれども。
ただ、そういうことを「インプリンティング」というのか、
と思って読んでみると、幾つかの類似現象が見られて大変興味深いです。

例えばコクマルガラスの話。黒くて揺れるものをぶら下げていようものなら、
コクマルガラスはたちまち警戒音をわめきだして大合唱になるそうですが、
このとき、その「敵」を初めて見た若鳥ですら、「警戒すべき相手」を記憶し、
のちのち「敵」が黒いものを手にしていなかったとしても、
「これは敵である」と覚えてしまうとか。
これも立派な、インプリンティング…でしょうか。

また、ボウシインコのパパガロの話。
煙突掃除人がやってくると「エントツソウジガキマシタヨー!」と
わめいて逃げたそうです。この口調から料理婦のおばさんの
「煙突掃除が来ましたよー」を覚えたのだと分かったものの、
パパガロがおばさんのこの言葉をきいたのは多くて3回は超えないはず、
たったそれだけの回数ですぐに言葉を覚えるのは普段ならないこと。
一般に鳥類は、上方から急降下してくる猛禽に対する恐怖からか、
上のほうにある、空にくっきり浮き立って見えるものを怖がるそうですが、
まさにそれは、煙突に立っている煙突掃除人にばっちり当てはまるわけです。
更にこの話に続けて、ズキンガラスのヘンゼルの話が始まります。
いたずら小僧に捕まって酷い目にあったらしいヘンゼル。
どうしてそんなことになってしまったのかを、自分で話したそうです。
「きつねワナでとったんや」
恐らく、数回しか聞かなかった言葉も、極度の興奮状態の中なら
刷り込まれてしまうということですね。

そんな感じで、どこか教科書に載っていそうなことも、
ユーモア溢れる文章で、エッセイとして次々と紹介されていきます。
多分、読む人が読めば「何ということだ、それは…!」が沢山詰まっているのでしょう。
勿論、インプリンティングの話だけではありません。
完結した世界・アクアリウムの魅力、魚の戦い、魚が思案する姿、
うら若いメイドさんを「夫」みなしたコクマルガラスのチョック、
博士に恋したコクマルガラスの給餌衝動、コクマルガラス集団の生態、
キャア気分とキュウー気分の生理的気分と鳥的言語の話。
オオカミやイヌ、その他多くの「武器」を持つ動物に見られる、
本能的な「社会的抑制」。動物にとっての「幸福」。
それに混じって、動物を飼うならこういうのがお勧め!なんて話題も。


あまりにも盛り沢山で、語りきれないものがありますが、
全編に渡って背景にあるのはひたすら、
博士の「友」へのまなざしと、とめどない探究心・好奇心でしょう。
長編小説よりも短いくらいの決して長くはないエッセイですが、
これを読めば、動物への視線が変わること請け合い。
菜の花も、とてつもなくハムスターを飼いたくなりました!
若干言い回しとか喩えが、日本人の発想ではなくて読みづらいかも、ですが、
さすがに長年(日本語版翻訳は実に40年以上前ですよ!)、
愛されてきただけあって、素敵な作品でした。


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文章・展開 :★★★★★
簡 潔 性 :★★★+
学 術 性 :★★★★
独 自 性 :★★★★★
読 後 感 :★★★★
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whitenote

はじめまして。この本を読んだことありませんでした(笑)
でも面白そうですね。blogを拝見して手に取りたくなりました!
「何ということだ、それは…!」が沢山詰まっている本って、楽しいですよね♪
by whitenote (2009-11-19 01:29) 

菜の花

>whitenoteさん
初めまして。コメントありがとうございます!
本書は息の長~い作品だけあって、何度か刊行されていますし、
図書館などでも何冊も入っていたりして、
手に入れやすい作品かなーと思います。機会があれば是非、
お手にとってみてくださいませ。
by 菜の花 (2009-11-20 00:33) 

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